本物の男はリハーサルをしない
私がRAIのオーケストラの入団オーディションの半年ほど前にあるエッセイに出会った。
ボストン・ポップスオーケストラの元コントラバス奏者のジャスティン・ロック氏の
本物の男はリハーサルをしない
という本である。
プロの音楽家を目指す人には多くのヒント与えてくれるであろうこの本。
専門家でなくとも勿論楽しく読める。
オーケストラ奏者の日常や奏者視点からの演奏会だったり、普段知りえない音楽の世界を面白可笑しく書いている。
最も私がこの本に出会ったきっかけは、プロのオーケストラに入るためのヒントや体験談等をネット上で誰かかしらがネット記事やブログで書いてなかろうかと探していた時に検索でこの本の一部がヒットした事だった。
プロのオーケストラのオーディションは経験してきた人間はもちろんの事、狭き門で一つの枠に何百人と受験者が殺到するなんてざらである。
この著者自身はオーディションというより時代が数十年前という事もあって師匠のツテで候補リストに入り、仕事をしていく中で団員になったという。
彼自身ただの幸運な人なだけではない。
ある時ひたすら音階やアルペジオだけを毎日八時間練習した。
そして季節が終わるころにはどんな調の曲のどんなパッセージでも自由に弾けるようになったという。
ある日「練習しないのにどうしてこんな音符を弾けるの?」と尋ねられ、彼は「練習する必用なんかある?音はいつも同じ場所にあるんだよ」と言った。
その言葉を聞いた人はきっと驚いた顔をしただろうと想像できる。
彼の忍耐力は本当に素晴らしい。
その努力がいかに退屈なのかは彼が本で述べているし、特に音楽家ならそのことは理解しうるだろう。
そうした特に若いころの日々の努力がプロを目指すためには必要である。
私はそれを読んだことと、ある日わが師が音階の試験やろうかなあなんて恐ろしいことを言い出したのでカール・フレッシュの全ての音階を練習し始めた。
基礎の練習は確かにしんどかった。
特にヴァイオリン族の楽器は調号が増えるとその音階の難易度が増す。
楽器が弾けるのは才能があるとかないとか言うが、私は忍耐強く努力出来るかだと思う。忍耐力こそ才能ではないかと思う。
そういう意味で著者は音楽家にあるべき才能を持ち合わせた人だったのだろう。
そしてオーケストラ奏者は単に真面目な人よりかは他の事にも興味を持って人と関わる事が好きな人が多いようにも感じる。
彼の人生で出会った音楽家以外の話も面白い。
この本からプロのオーケストラ奏者になるヒントだったり、音楽が、オーケストラがいかに面白く楽しいものかを思わせられる。
ボストン・ポップス独自のルールや過去に起きた事件、彼のプロデュースしたコンサートの話は音楽に詳しくなくても興味深く読めるだろう。
音楽が好きな人、音楽をしている人にはぜひおすすめしたい一冊だ。